バンカー・アーキテクツは2005年に創設されたメキシコ・シティに本拠をおく若手建築家集団。開設から10年と日は浅いものの、その発想・思考の範囲は非常に広い。小は小さなアイコニック・チャペルから、大は都市全域を対象にしたアーバン・マスタープランと自在である。
バンカーの魅力は既存の枠にとらわれない独創的なアプローチにある。例えばアカプルコ湾をまたぐ長さ3kmの居住橋のプロジェクトや、メキシコ・シティの歴史街区にある都市広場に計画された地下300mの深さに及ぶ逆転超高層ビルとか、そのスーパー・スケールな発想に驚かされる。 彼らの最初のモノグラフ「STOP: KEEP MOVING」には、オキシモロン(撞着語法)をベースにした彼らの思想が表現されている。生活・人間・建築の相互矛盾を見出すことで、建築の真の意味を探り出す。互いに矛盾する発想をミックスすることで新しい意味を発見するオキシモロンは、彼らの中心的な建築コンセプトとなっている。
例えば「エスタンシア・チャペル」はトロピカルな植物園にガラス張り建築という、ややもすれば温室にもなりかねない矛盾から発想されたミニマルなウエディング・スペース。緑の中に清楚に佇む静謐空間は美しい。このような人生の出発を祝うチャペルに対し、「サンセット・チャペル」は亡くなった人を弔うスペースだ。複雑な1階のRC造形には瞠目させられる。さらに「エクメニカル・チャペル」というプライベート・チャペルもある。半地下に沈められた祈りの空間は静穏な雰囲気を醸して精神の安寧を与えてくれる。
バンカー・アーキテクツは小さな宗教空間が得意だが、都市的スケールの作品も手馴れたものだ。20世紀中期のグスマン・カテドラル前の「グスマン噴水広場」は、暑い気候と日陰なしの都市広場に雨の水溜りを抽象化した多数の円を描き、円の中心に噴水を配置して涼をとる仕組み。また展示イベントの「アップサイクリング・パビリオン」や「パネル・レイ・パビリオン」などでも強かなデザイン力を発揮して先端的な展示スペースを生み出している。
1978年生まれのエスタバン・ソレスは2004年にイベロアメリカーナ大学建築学科を卒業し、翌年バンカー・アーキテクツを創設した早熟派。現在20数名のスタッフを抱え、メキシコや北米で活躍。今後ラテン・アメリカ全域での建築活動が期待されている。
»バンカー・アーキテクツ

文:淵上 正幸(建築ジャーナリスト)

  • 1.エスタンシア・チャペル

  • 2.サンセット・チャペル

  • 3.エクメニカル・チャペル

  • 4.グスマン噴水広場

  • 5.アップサイクリング・パビリオン

  • 6.パネル・レイ・パビリオン

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